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レース体験記:サハラマラソン挑戦記

挑戦者:藤浪 千景(42歳)
レース:第19回 サハラマラソン
時期:2004年4月約11日間

Do my good speed −私のサハラ−

「Do my good speed」 口から言葉がこぼれた。
そして、自問自答する。Best Speedでなくていい。Raceはまだ明日もある。
これは、今の私のgood speed か?そう、It's my good speed 大丈夫、これなら行ける。走り続けられる。無理はしていない。あまやかしてもいない。
Race5日目、76Kmのロングコース、制限時間は34時間。私は45,5KmのCP4でビバークしての明け方出発である。

CP4でビバークする人は多くない。ほとんどの人が一気に76Km歩いて(走って)しまうのだろう。でも、ハーフを一度走った事があるだけの私にとって、76Kmはまったく想像できない世界だった。
案の定、スタートして10時間半、45、5km地点のCP4に着いた頃には、息が上がり、もう一歩も動けない状態だった。CP5まで、いっしょに行こうと言ってくれたベテラン小室さんに「私はもう無理です。どうぞ先に行って下さい」と言い、顔の砂をぬぐうのももどかしいまま、シュラフにもぐりこんだ。目が痛い、でも今はとにかく休みたい・・・・

人間の体はよく出来ている。それまでも、28Km,、34Km、37Kmそして45、5Kmと毎日走りずめだったが、一寝入りすると活力がよみがえってくる。AM2:00目がさめてトイレに行く。今日も宝石箱をひっくりかえしたような星空だ。CP4はシンと寝静まっていて、スタッフの話し声だけが聞こえる。どうも、この時間から歩き出す人はいないようだ。朝食を、とも思ったが、あまり音をだしては迷惑、もう少し寝ようと、またまたシュラフにもぐりこんだ。

AM4:00そろそろ活動しなくては。のそりと動き出すと、スタッフから「Are you going?」と聞かれた。「No. I have breakfast.」つたない英語で返す。「ボナ・ペティ」こんな状況でなんと優雅な響きだろう。「メルシ」と答えてお湯を沸かしはじめた。
結局その日はAM11:00ビバーク到着。76Kmを26時間かかった事になる。あと残すところ2日。明日はマラソンステージで42Km。何事もなければ、制限時間内に着けそうだ。『完走』という言葉が頭の中でふくらみはじめた。

学生の頃、アラビアのロレンスを見たり、フランク・ハーバートの「DUNE」を読んで、砂漠とはどんな所だろう?と思いめぐらせていたっけ。
サハラに行きたいと思ったのも、その頃の気持ちが心の奥にあったからだろう。
映画や小説の世界は、3日目の20Kmにおよぶ大砂丘ごえで、いやというほど味わった。まさしくDUNEビル2?3階はあるかという砂山を文字どおりよじ登って行く。やっと登ったかと思うと、同じだけ下らなければならない。膝近くまで砂にうもれながら、ザザー、ザザーと下って行く。これが結構気持ちいい。ただ、それが20Km続くとなるとうんざりしてくる。「足をあげろ。Do my good speed 」心の中でとなえはじめたのもこの頃からかな。
でも、おおきなDUNEはこの日がメインで、他はほとんどDESERT。砂漠とはおもにこちらを指すようで砂地に石や岩がごろごろしていて、植物もはえている所を進む。多少のアップダウンはあるが、かなり先まで見渡せる。地平線を見ながら走るというのはとても爽快である。今年は気候にもめぐまれ、ときおり心地よい風がふいたり、少し曇り空だったため、気温も35度(私の持つていた温度計では)が最高だった。最低気温は12度。かなり冷え込んだ明け方もある。

今まで、気持ちいいとか、爽快とか言ってきたが、実はサハラの洗礼は初日に受けた。
スタート前のブリーディングが終わると、軽快な曲が流れてくる。それはヒットポップスだったり、ラテンミュージックだったり・・・そしてカウントダウン「3、2、1、ウォォォー」歓声と共にゲートから飛び出して行く。空からは、あり得ない高度で近づいてくる撮影用のヘリコプター!

そんなシチュエーションに浮れ過ぎたのか、走り出して1時間ほどすると、吐き気がして、視界が妙に狭く、時おり眠気もおそってきた。原因は、濃すぎるスポーツドリンクと、軽い脱水の始まりらしい。スポーツドリンクはやめて水に切り替える。のどはまったく乾かないが、無理無理水を流しこむ。

CP1に着いた頃には、極度の頭痛も加わり気分は最悪!その後、吐き気はおさまったが頭痛がひどく、とても走れる状態ではなかった。残り18Km、走るのはあきらめて歩く事にした。後ろからどんどんぬかされる。あーあ、初日からこうじゃなぁタメ息がでた。トレーニングで走る10Kmはすぐなのに、歩く10Kmは長い。やっとCP2到着。支給された水をボトルにつめかえていると、あら、らくだだ?!ラミとリブが(らくださんの名前です)やってきた。本当に最後尾になってしまった!

少しは走らなくては、と思ったが、やはり頭がガンガンする。他の数人の選手と行きつ戻りつしながら進む事になった。加えて、スタッフが我々が通り過ぎるのを待ってマーキングの標識の撤去作業をしていくという状況もかなりなさけないものがある。

スタッフの一人が「一緒に歩いていいか?」と聞いてきた。ホントのこと言うと、頭痛がひどくて話す気にはならなかったが、せっかくの申し出(?)を断るわけにもいかず、OKと答えた。彼はイギリス人で合気道をやっていると言う。ストーンズ、レッチリ、オアシスなんかを歌いながら2人で歩いた。どうも彼には、最後尾の選手のスピードアップをはかるという指名もあるらしく、他の選手とも順に歩いていた。少しムッとしたが、その後のレース中、車で通りかかると、速度をゆるめ、窓から親指を一本立てたサインをくれたり、砂丘ごえのときには、大きな声で「ガンバッテ、ガンバッテ、チカゲ!」と励ましてくれたりした。苦しい時の声援ほどうれしいものはありません。

そんなこんなで、first stageは28Kmを6時間もかかってしまい、589人中584位(リタイア3人を含む)という、散々な成績だった。

2日目からは、マーキングを目安に、水分摂取をこころがけ、時折帽子をあげて、頭に風を通した。(頭痛防止)私は歩くのが遅い。身長も150cmしかないので歩幅も狭く、いくらサハラの制限時間がゆるやかでも、walkingではtimeout必須である。それからは、timelimitを気にしながらの毎日が続いた。
だから、毎朝スタート地点に立つと、『今日も走れる!』ことが、心底嬉しかった。
また、日々のゴールのビバ?ク地の赤い2つのゴールポストと黒白テントが、砂漠のゆらいだ空気の向こうに見えると「あと少し!大丈夫、明日も走れる!」と思い、自然と足早になった。
結果的に、2日目からは、水分補給もうまくいき、頭痛もおきなかったので、timelimitは気にせず走る事が出来た。

あまり無理のできる年ではないので、『あせらず、無理せず着実に』を念頭にレースに望んだ。そうは言っても、2日目と最終日は少し甘やかしたかなぁ、と反省も残る。総合順位553人中515位。人に自慢できる成績ではない。

とうとう最終日。距離は20Kmでほとんど市街地なので、気分的にはとても楽である。ゴール前。1週間ぶりのアスファルトのストレート。足に懐かしい感覚がよみがえる。もう荷物も気にならない。ダッシュ!Dedert runもこれで終わり。ちょっと寂しい。

そして、ゴール!選手1人1人にメダルが渡される。「It's mine?!」ウォォォーィ!
年がいもなく、飛び上がって喜んでしまった。
先にゴールしていた前田さんがコーラで迎えてくれた。一気に飲み干す。
おいしい!
私のサハラは終わった。

あとがき
ゴール後、バスでワルザザードに向かう中、窓の外に流れる壮大な景色に唖然とし、一瞬でも、この中に自分が存在できた事を感謝した。
そんな風景をボーッと眺めながら、「今度来る時は・・・」と考えている自分にハッとし、苦笑してしまった。サハラの魔力とはこのことか・・・

おまけ −ギアについて−

shoes:
モントレイルのキナバル(ゲーター付)
つま先のメッシュから砂が入る。ゲーターがついているため、履いたり脱いだりするのが面倒。2cm大きいサイズを購入。豆は出来ず、爪が一本死んだだけですんだのは幸いである。

sack:
カリマーのARー35
軽量で使い勝手はよい。表のメッシュも重宝した。
ショルダーに手作りのパットを装着

wear:
パタゴニアのシルクウエイトモックTシャツ長そで
通気性、速乾性共に申し分なし。長そででも暑さをまったく気にせず走れた。
ワコールのCW−Xロング
ちょっと暑苦しかったが、ゲーターの上からかぶせるようにはけば、くるぶしからの砂は完全にシャットアウトできた。よって、スパッツはいらない

schlaf:
イスカのダウン700g入り。
寒がりなのと、砂漠で風邪ひいたら大変、との思いからこれにしたが、どうしてもかさばってしまうのが難点。おかげで(?)1日目は食料もまだ多いため、シュラフ外付けというかっこ悪さだった。ただし、夜は半そで短パンでぬくぬく熟睡できた。
マットはモンベルの空気でふくらますタイプのを使用。

food:
日本のoutdoorshopで手にはいるアルファ米やパスタ、パリでは、knorr製のbivouacを数種購入、他はナッツやカロリーバー、バナナチップ等、練り梅は歩きながら食べるのにとても重宝した。
ベテラン日本人選手の食料は必見です。えっ、こんな物を!?と思うのがかなりありました。そして、とてもおいしそうでした。

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